シンガポールの国土面積はわずか700平方キロメートル余りだが、貿易摩擦の中でも、独自の強みを活かし、海外からの投資呼び込みと多国籍企業との提携を続けてきた。
こうした提携は、多国籍企業がサプライチェーンのリスクを分散できるだけでなく、現地企業にも技術革新と海外展開というメリットをもたらす。
トランプ米大統領が発表した相互関税をきっかけに、貿易政策の不安定さが続いている。しかし、シンガポール企業Richport Technologyで出荷に支障は生じていない。Richportの配送車両は、VDL Enabling Technologies Groupのシンガポール工場との間を毎日平均3往復している。
Richport Technology幹部のチュー・キエンズ氏は、両社のチームは日常的にコミュニケーションを取っており、特に現在の状況下ではこの頻度が重要だと強調する。
チュー氏は「関税は今のところ直接的な影響を与えていない。しかし、不確実性は課題となっている」と述べた。「世界の半導体サプライチェーンは非常に複雑だ。関税改正に対応するため、双方向の開かれたタイムリーな意思疎通を維持し、変更があれば迅速に調整する必要がある。業界では『ジャスト・イン・タイム』という言い回しがよく使われていまたが、今は『念のため(ジャスト・イン・ケース)』だ」と語る。
VDL Singaporeのチャム・シンチュン代表取締役は、Richportとの20年近くにわたる協業で、両社の間には深い相互理解が築かれ、外部からの課題に直面しても互いに支え合い、事業の継続性維持のための戦略を共同で策定することができると語った。
VDLが扱う部品の多くは、耐腐食性と平滑性を高めるため、組み立て前に表面の洗浄工程をほどこす必要がある。ここがRichportの専門分野だ。
チャム氏によると、高い精度と生産スピードが不可欠とされる半導体サプライチェーンで、両社は、下流製品のイテレーション(短期間での設計・実装・試験)への迅速な対応と、パートナーの能力への信頼が必要とされるという。VDLのチャム氏とRichportのチュー氏は、このようなパートナーシップの構築には時間がかかり、事業拡大のペースさえも同期させる必要があると口を揃える。
VDLのシンガポール3番目のプラントは、2万平方メートルの敷地面積で、今年中に完成予定だ。Richportも業務を拡大予定で、現在の敷地面積約5157平方メートルの工場から、VDLにより近い1万2077平方メートルの新工場に移転予定だ。
原産地要件に強みをもつ地元企業
VDLのような多国籍企業が地元企業と提携することは珍しくない。近年のグローバルサプライチェーンの混乱を受け、関係者すべてにとって、こうしたパートナーシップは不確実性に対応する効果的な防御手段となる。
Association of Small and Medium Enterprises(ASME:中小企業協会)のアン・ユイット代表によると、グローバルサプライチェーンの不安定化に伴い、多国籍企業と、中小企業を含む地元企業との提携が急速に拡大している。アン氏は「この不安定な状況で、多国籍企業はより強い地元パートナーを求めている」と述べた。
アン氏は、多国籍企業がASEAN市場での事業展開を目指す際、地域での経験とサプライチェーンネットワークに関する知見を活かし、現地企業がしばしば効果的な橋渡し役となっていることを指摘する。こうした現地企業の存在は、時に複雑な東南アジア市場での信頼構築に貢献しているという。
「このようなモデルは原産国管理においても有利だ」とアン氏は言う。「地元企業は、複雑な貿易規制への対応と、比較的低いシンガポールの関税で多国籍企業をサポートできる。ただし、関税の変動によって、こうしたパートナーシップのかたちは容易に変化を余儀なくされる可能性もある」
シンガポール国立大(NUS)経営学部戦略政策学科講師のシュー・ラー博士は、多国籍企業と現地企業の協業で、リソースの統合・最適化、コスト削減、効率性向上、そして不確実な環境における回復力と競争力強化が実現できると言う。「現在の世界経済の不安定さを考えると、単独で活動する企業は、あらゆる逆風や課題に効果的に対処することが困難になるだろう。数の力こそが強みとなる」
企業庁(Enterprise Singapore)のソー・レンワン製造業部門担当アシスタント・マネージングディレクターは、シンガポールを多国籍企業にとってのグローバルサプライチェーンの重要な拠点とすることを目指していると語った。近年のグローバルサプライチェーンの混乱は、多様で柔軟な物流システムの重要性を浮き彫りにしている。シンガポール企業はすでに、地域的にも世界的にも強固な基盤を築いており、強靭性強化を図る多国籍企業にとって理想的なパートナーとなっている。
多国籍企業を惹きつけるシンガポールのビジネス環境
NUSのシュー博士によると、シンガポール独自の強みは、高度な技能を持つバイリンガル人材や、開かれたビジネスフレンドリーな環境に加えて、高い効率性と成熟した市場メカニズム、そして文化的・地域的な障壁や保護主義が比較的低い点にあるという。こうした要因により、多国籍企業の市場参入コストも比較的低く抑えられる。
シュー博士は、シンガポールの戦略的立地が、国内市場の小ささを補っているとも言う。多国籍企業はシンガポールを東南アジアへのゲートウエーと見なすことが多く、当地で製造パートナーシップをもつことは、サプライチェーンの効率向上につながる。重要な利点は、航空便での近さにある。遅延がなければ、東南アジアのほとんどの市場はシンガポールから4時間のフライトでアクセスでき、7時間のフライトで中国、東アジア、オーストラリアなどまで行くことができる。さらに、その効率性が世界的に知られるシンガポール港も利点の一つである。(Part 2に続く)
※元記事「悉看大势:全球供应链频遭冲击 外企风暴中寻港湾 抱团本地公司开新局」(8月3日付聯合早報紙)を、許可を得て英語版としてEDBが独自に再編集したものを翻訳したものです。誤りについては、すべて翻訳側の責任となります。