シンガポールには、世界経済フォーラム(WEF)が認定する「WEFライトハウス」工場が6カ所ある。国土と資源が限られているにもかかわらず、先進製造業の世界的拠点として評価される理由は何か。それは、製造業の競争力を支える強固なエコシステムにある。シンガポールが先進製造を実現する4つの柱を解説する。
イメージはAIで生成したものです
シンガポールのWEFライトハウス6工場―東南アジア製造業の未来形
高度技能人材
シンガポールは、高等教育、インターンシップ、技能向上、グローバル人材の補完的受け入れで、製造業の豊富な人材基盤と安定供給を確保している。
年間高等教育修了者のうち、約35%がSTEM(科学・技術・工学・数学)専攻だ。中でもシンガポール国立大(NUS)と南洋理工大学(NTU)の2大学は、工学分野で世界トップ20にランクインしている。
社会人は、職種転換など新たな役割のため、技能習得助成制度「SkillsFuture」や職種転換支援事業「Career Conversion Programmes(CCP)」などの制度を通じてスキルアップが可能だ。一方、学生は「Work-Study」や「ITE Technician Support Scheme」などの実習事業に参加し、業界での経験を積むことができる。
即時利用可能なインフラとリソース
シンガポールの製造業は、信頼性が高く高品質なインフラを基盤に、安定した事業運営を実現した。
工業団地運営政府機関のJTCは、先進製造業を支える専門工業団地やイノベーション地区などの産業インフラ開発を主導している。JTCは、戦略的に主要交通ハブの近くに位置する国内工業用地の約86%を管理し、地域や世界市場への円滑な接続を提供する。
東部タンピネスの半導体専門工業団地Water Fab Parkや、西部トゥアスの生物医学専門工業団地Tuas Biomedical Parkなど、業種に特化した工業団地が各地に展開中だ。西部のジュロンイノベーション地区では、企業が研究開発(R&D)、人材育成、生産を1カ所で統合的に行える。
これらの工業団地には、高度な処理工程で精製した高純度再生水「NEWater」が低価格で供給され、半導体や医薬品といった水集約型産業を支えている。
シンガポールの先進製造業のR&Dエコシステムは、企業研究所、政府研究機関、大学からなる包括的なネットワークだ。
科学技術研究庁(A*STAR)は、インダストリー5.0の研究開発用生産施設(ラーニングファクトリー、LF)「Model Factory」や、先進製造イノベーション施設「The ASTAR Advanced Remanufacturing and Technology Centre(A*STAR ARTC)」などの専門施設を中核となって運営している。これらの施設では、企業が新技術をテストし、研究者と共同でソリューション開発を行える環境を提供する。
産業界と研究機関の緊密な連携により、アイデアから産業応用への転換が加速され、製造業の開発サイクル短縮と国際競争力維持を実現している。
ビジネスフレンドリーな環境
シンガポールの先進製造業エコシステムは、企業の事業立ち上げ、運営、イノベーションを容易にする。知的所有権が堅固に保護されており、企業は安心して高付加価値研究開発拠点を設立できる。高度に整備されたサプライチェーンは、海外市場への効率的なアクセスを可能にする。合理化された規制プロセスが効率性を高め、世界的EPC(設計・調達・建設)企業とテクノロジー・プロバイダーの強力な基盤により、設計や自動化に関する最新の専門知識へのアクセスが確保されている。
積層造形(3D印刷)推進機関National Additive Manufacturing Innovation Cluster (NAMIC)、国家ロボティクス推進プログラムNational Robotics Programme (NRP)、製造業向けAI研究センターA*STAR AI CoE for Manufacturing (AIMfg)などの官民連携機関が整備されている。各機関は、企業がインダストリー4.0のソリューションを実際の環境下で試験、導入、拡張できる場を提供し、デジタル変革の加速と実行リスクの軽減を支援している。
持続可能な事業運営を支援
製造業がよりグリーンな事業運営へと移行する中、シンガポールは政策面でのサポートと、企業の持続可能性への取り組みを支援するパートナーエコシステムへのアクセスを提供している。
2050年までに炭素排出量実質ゼロ(ネットゼロ)達成を目指すシンガポールは、国を挙げた環境計画「Singapore Green Plan 2030」や、エネルギー転換ため新しいインフラへ投資を目的とした100億シンガポールドル規模の「Future Energy Fund」など、政府や官民連携のさまざまなイニシアチブを推進している。
シンガポールには、140社を超える炭素サービス・取引企業が集まっている。低炭素アドバイザリーサービスや戦略策定を提供するコンサルタント、炭素会計やデジタル計測・報告・検証(MRV)サービスを提供する企業、ソリューション実装を担うエンジニアリング企業などが、費用対効果の高い脱炭素化を支援する。シンガポールに拠点を置く製造業は、この多様なエコシステムを活用し、持続可能な事業運営への転換を円滑に進めることが可能だ。
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