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日立、シンガポール拠点60年の歩みとAI時代の東南アジア戦略

日立、シンガポール拠点60年の歩みとAI時代の東南アジア戦略


Hitachi Chairman, Mr Kojin Nakakita giving a speech.

(写真提供:日立アジア)

シンガポール進出から60年以上を迎える日立製作所は、東南アジア地域統括拠点としてシンガポールの戦略的価値を高く評価している。特に注目されるのは、AIとデジタル技術を活用したスマートネーション構想への貢献だ。鉄道システムでのエネルギー削減や予知保守の実現、次世代データセンター開発など、具体的な成果が現れている。さらに人材育成にも力を入れ、「Hitachi Young Leaders Initiative」などを通じて将来のリーダー育成に取り組む。

政治的安定性、多様な人材の確保、政府の強力な支援という三つの要因が、日立の地域展開を支える基盤という。

日立アジア太平洋会長の中北浩仁(なかきた・こうじん)氏に、シンガポールでの事業展開と東南アジア戦略について詳しく話を聞いた。

中北浩仁氏近影

中北浩仁氏近影 (写真提供:日立アジア)

60年の信頼関係とシンガポール拠点の戦略的価値

Q:日立のシンガポールでの事業内容と、シンガポールが東南アジア地域統括拠点として最適だと思われる理由をお聞かせください。

中北氏(以下A ):日立はシンガポールに進出して60年以上になり、長年にわたり強固なパートナーシップを築いてきたことを光栄に思っています。

日立は社会課題の解決を常にめざしており、顧客や提携先との協創を通じて、IT、制御・運用技術(OT)、プロダクトを統合したソリューションを展開しています。

今後、人工知能(AI)は世界的に、特に東南アジア全域の発展を推進する上で重要な役割を果たすでしょう。日立はエネルギー、ヘルスケア、モビリティ、データセンターといった、テクノロジーが持続的な影響をもたらす分野に重点を置いています。

日立の全ての事業の中核を成しているのは、環境・幸福・経済成長が共存する「ハーモナイズドソサエティ」というビジョンです。

東南アジアでの戦略的な立地と、多文化で多様な社会を併せ持つシンガポールは、域内への事業拡大にとって理想的なハブとなっています。

日立がなぜ東南アジアの地域統括拠点としてシンガポールを選んだのか、3つの理由をお話しします。

まず、シンガポールは東南アジアの中でも特に政治的に安定した国のひとつであり、この安定性が同国のオープンで予測可能な経済を支えています。こうした環境は、企業の事業成長にとって大きな可能性をもたらします。

次に、シンガポールは外的脅威や自然災害の影響が少なく、グローバル人材が働き、生活する上で魅力的な場所となっています。多様で優秀な人材を育成することは、日立の社会イノベーション事業を強化し、重要なソリューションを創出するための鍵になります。

最後に、政府の強力な支援も非常に重要な要因です。日立は域内での成長を推進するため、長期にわたってシンガポール政府と緊密に協働しています。
 

スマートネーション実現を支援するデジタル戦略
 
Digital wireframe rendering of a high-speed train on tracks, representing modern rail technology and innovation.

HMAXイメージ(日立アジア提供)

Q:日立はデジタルソリューションとAIといった強みで、シンガポールの国家デジタル化構想「スマートネーション」を支援しています。シンガポールで導入した日立のソリューションについて詳しく教えていただけますか。AI関連で期待される注目プロジェクトについてもお知らせください。

A:AIが効果的に機能するには、強固なインテリジェンス基盤の構築が極めて重要です。日立はこの実現のため、デジタルトランスフォーメーションの機能強化に多額の投資を行ってきました。

加えて、グループ会社のGlobalLogicと域内の豊富なAIエンジニア人材と共に、東南アジアのデジタル事業を加速する準備を整えました。

これらの準備を経て、日立はシンガポールの戦略的パートナーと数々のコラボレーションを展開してきました。いくつかの例をご紹介します。

鉄道事業を推進しているHitachi Rail GTSは、都市鉄道(MRT)南北線と東西線に無線式列車制御システム(CBTCシステム)を導入しました。

日立がシンガポールの公共交通機関大手SMRTと共同開発した次世代型CBTC「the Green CBTC Next Gen」は、2024年11月に完了したプロジェクトの第一段階で、2路線で8%のエネルギー削減を達成しました。

Hitachi Railのデジタルアセットマネジメントプラットフォーム「HMAX(Hyper Mobility Asset Expert)」もシンガポールへの導入を検討しています。HMAXは、鉄道車両、信号システム、鉄道インフラに高度な機械学習とAIを活用し、予知保守と保有資産のパフォーマンス最適化を実現することで、鉄道ネットワーク全体の信頼性向上とコスト削減を推進します。

アジア太平洋地域での日立のAIアプリケーション技術を活用した次世代データセンター開発では、通信大手シングテル(Singtel)と覚書を交わしました。
 

人材育成で築く持続可能な未来

Q:地元人材育成のため、日立はシンガポールでどのような提携を行っていますか?注目すべき成果があれば教えていただけますか?

A:人材は、日立だけではなく、東南アジア全体の経済成長にとっても最も重要な資産です。日立では、急速に変化する経済や絶え間なく変化するニーズに機敏に対応できるよう、将来の人材を育成する複数のプログラムを導入しています。

その1つに、「Hitachi Young Leaders Initiative」があります。今日まで日本と東南アジアの400人を超える優秀な大学生に体験型プログラムを通して視野を広げる機会を提供してきました。

若く才能のある人々に、政府や経済界、学術界の著名な講師とグローバルな社会課題について活発に議論するための場を提供するものです。この体験をきっかけに、参加者の皆さんが将来、社会課題に取り組む革新的なソリューションを導き出す力を得られると信じています。また、過去にプログラムへ参加された学生の中から、後に政府機関や日立グループに就職した人材を輩出したことを誇りに思っています。

他にも、ヘン・スイキャット前副首相との対話の中で提案された、東南アジア諸国連合(ASEAN)と日本の関係強化を目的とする「ASEAN Business Leadership Programme」があります。これは東南アジアと日本の優れた経済界のリーダーが集い、意見を交わし、ASEANの社会課題の解決方法を模索するものです。日立は2023年にスポンサーとして本イベントの立ち上げに参画し、以来サポートを継続しています。多くの参加者がこの国際交流により貴重な洞察を得て、持続可能な未来を築く新たな視点を持つことが可能になりました。
 

Group photo of participants and leaders at the Hitachi Young Leaders Initiative 2024 event in Bali, themed “Greening Together: Inclusion & Sustainability.”

Hitachi Young Leaders Initiativeの様子(日立アジア提供)

市場の多様性認識と協創マインドセットが不可欠

Q:海外進出を希望する、またはシンガポールや東南アジアを次のステップとして検討する日本企業へのアドバイスがございましたらお知らせください。

A:海外での事業展開、特にシンガポールや東南アジアへの進出を検討している日本企業へのアドバイスは、昨今のダイナミックな市場における複雑性を認識することです。

様々な分野の専門知識を組み合わせた統合型のソリューションを提供することができれば、複雑な課題に対してより効果的な対応が可能になります。

同様に、パートナーやお客様と緊密に連携する協創のマインドセットを持つことも重要です。

協創を通じて、個社での取り組みの枠を超えた活動が可能になる上、常に変化するニーズへの適応力を強化することができます。

日立は、IT、OT、そしてプロダクトを融合し、パートナーやお客様との協創を推進することが、この地域における成長と成功に不可欠であると考えています。

この場をお借りして、EDBからの日立の事業活動に対する強力なご支援に、改めて感謝の意を表します。

日立とEDBのパートナーシップは、将来に渡ってイノベーションと新たな成長の機会を創出し、東南アジアの経済発展に貢献し続けると確信しています。

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