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消費者ビジネスのための実践ガイド  

消費者ビジネスのための実践ガイド  

~シンガポールの消費財ビジネスの新展開を紹介~ 

A lady checking on her phone while smiling in the mall.

2030年までにアジアの消費市場は10兆ドルの成長が見込まれ、世界消費の成長の半分を占めるまでに拡大すると予測されている1。この機会を捉えるため、世界のトップ企業、そして日本企業がすでに動き出している。

現在、世界の日用消費財メーカー上位10社、食品・飲料メーカー上位16社が、域内事業統括の中心地、また製品のイノベーションハブとして 、シンガポールを戦略的拠点に選んだ。

本稿では、シンガポールならではの価値創出の仕組みと、具体的な支援体制を紹介する。
 

■ビジネスニーズに応じた柔軟な展開が可能なビジネス環境 

シンガポールの特徴は、整備されたビジネス環境と手続きの透明性にある。企業のニーズや成長段階に応じて、柔軟な事業展開が可能な仕組みが確立されている。 

市場参入の初期段階では、駐在員事務所や小規模なプロジェクトチームからスタートできる。会社設立手続きは最短2日程度で完了し、ビザ申請などの行政手続きもオンラインで効率的に進められる。 

企業は複雑な規制に時間を取られることなく、事業価値創造とビジネス展開に集中できる。各種サプライヤーから最終顧客まで、多様なパートナーとの連携が容易なエコシステムも、海外ビジネス展開を加速させる要因だ。 
 

シンガポールでビジネスを立ち上げる3つのステップ

アサヒグループは、グループ初のグローバル調達機能を統合した子会社をシンガポールに設立した。シンガポールが世界的なブランドや市場に近いことと、持続可能性などの新興分野や、新たな市場での成長に貢献するグローバル人材を輩出していることが理由だという。 
 


■本社技術と現地知見を活かすアジア研究拠点 

シンガポールの研究開発力と、東南アジア市場への近接性と理解を組み合わせることで、日本本社の技術を活かしながら、現地市場に適した製品開発をスピーディーに実現できる。シンガポールの強固な規制環境と活気ある消費者基盤は、企業が新製品を発表・テスト販売を行う拠点としても非常に適している。 

また、各分野で専門研究機関の支援を得られる: 

  • Food Tech Innovation Centre(FTIC):Nurasa(政府系投資会社テマセク傘下)が運営する持続可能な食品開発の戦略的拠点。食品製造施設では、高度な精密発酵設備や食品加工設備を備え、製品開発から商業化までを支援する。 
  • Food Innovation & Resource Centre(FIRC):高等専門学校 シンガポールポリテクニック(Singapore Polytechnic)が運営する食品企業向けの技術支援機関。製品開発、製造工程の最適化、包装、保存試験などを提供している。
  • Consumer Chemicals Technology Centre(CCTC):Singapore Polytechnicが運営する化粧品・パーソナルケア分野の開発支援機関。アジアの消費者ニーズに応える製品や環境配慮型製品の開発、各市場の規制対応までをサポートする。 

特筆すべきは、A*STARが提供する共同研究所A*STAR Singapore Institute of Food and Biotechnology Innovation (SIFBI)の仕組みだ。自社で研究設備や専任チームを持たなくても、既存の研究基盤を活用する連携モデルで、初期投資を抑えながら研究開発を開始できる。 

これらの専門機関を通じて、アジアの消費者データや天然物資源などを活用し、本社の製品開発力に新たな価値を付加している。
 

ポーラオルビスは、A*STARスキンリサーチインスティテュート(SRIS)との共同研究を通じて「ミラースキン」を開発した。A*STARのアジアンスキンバンクのデータベースと最先端設備を活用し、日本の皮膚科学とアジアの肌特性研究を組み合わせることで、現地消費者ニーズに応える製品開発を実現している。  
 

味の素は、シンガポールで新ブランド「Atlr.72」を立ち上げ、フィンランドの新興企業Solar Foodsが開発した空気由来たんぱく質「Solein」を使った環境配慮型商品を限定販売中だ。シンガポールは、新食品や代替たんぱく質導入に関する透明かつ明確な監督体制の整備が進んでおり、実験的な市場として味の素の製品開発や先行販売の拠点となっている。 
 


■東南アジアの製造拠点として、成長と革新を支える環境 

シンガポールは、製造拠点の新設から高度化まで、企業の成長段階に応じた支援体制が整っている。新規参入企業は、工業団地運営政府機関 JTCの既存工場を活用することで初期投資を抑制でき、スピーディーな立ち上げが可能だ。さらにA*STARとシンガポール貿易産業省が共同で開設した The Sectoral AI Centre of Excellence for Manufacturing (AIMfg)  との連携で、進出初期から最新のデジタル技術や自動化システムを導入できる環境にアクセスできる。 

食品製造分野では、明治、ヤクルトなどが現地生産を展開し、充実した製造環境を活かして技術革新に取り組んでいる。東南アジア全域に整備された物流網とコールドチェーン、効率的な製造・供給体制を実現している。 
 

麦の穂(ビアードパパ)は、シンガポールをASEANを中心とする12カ国・地域の統括および製造拠点とし、日本と同等の高品質なシュー生地を各国FC店舗向けにシンガポール工場で製造・供給している。また現地人材と連携し、現地の嗜好を反映した商品開発・品質維持も行っている。 
 

充実した政府支援で企業の成長を後押し 

シンガポール政府の支援制度は、企業の成長段階とニーズに応じて体系的に整備されている。例えば、研究開発分野では、企業向け研究・イノベーション支援制度(RIS(C): Research and Innovation Scheme for Companies)が企業の技術開発とイノベーション活動を促進し、シンガポール発の製品やプロセスの開発を実現を支援する。  

さらに、大規模な経済活動を促進する還付型の税額控除制度、人材育成のための支援制度を通じて、事業規模の拡大を目指す企業を後押ししている。 

シンガポール経済開発庁(EDB)は、包括的な支援を通じて、企業の新たな挑戦を後押ししています。アジアでの事業拠点としての展開をご検討の際は、ぜひご相談ください。 
 


Footnote:

[1] McKinsey & Companyのレポート" Driving Asia's $10 trillion consumption growth opportunity" より

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