政府の全面支援 、 強固なインフラ、 戦略的な地理的優位性を背景に、シンガポールはアジア太平洋地域の人工知能(AI)に関する情報やノウハウ、 人材などが集まるハブとしての地位を高めつつある。AIによる経済効果も2030年までに約1983億シンガポールドル(日本円で約24兆円1)に達すると見込まれている。
シンガポールが推進するAI主導の経済施策と、それを支える主要機関の取り組みを紹介し、企業がAIエコシステムから得られるメリットを考察する。
アジア太平洋のAIハブを目指す
ローレンス・ウォン首相は2025年のシンガポール建国60周年に合わせた演説で、「AIを活用して生産性を高め、経済全体で新たな価値を創出することこそが真の転換点になる」と述べた。
AIの実用化が進んだ2019年、シンガポール政府は「国家AI戦略(NAIS)」を発表し、AIによる経済発展を目標に掲げた。2023年改訂のNAIS2.0では、AIは「あれば便利なもの」から「必要なもの」とした。戦略的重点分野 で産官学が連携してAIの導入・活用を推進し、社会全体がAIリテラシーを身につけ、責任を持って活用していくことを目指している。
2025年7月発表のモルガンスタンレーの調査報告によると、企業の70%以上がAIを導入し、AI研究開発・製品チームは約150チーム、AIスタートアップ(新興企業)は1000社を超えた 。
シンガポールにはAIの開発・導入・活用がしやすい環境が整っているため、企業はイノベーションを加速し、より効率的に事業を拡大することができる。現にOpenAIなど、世界的なAI企業が、シンガポールをハブとしてアジアでの事業を拡大し始めている。
AIを推進する政府機関
シンガポールでは、複数の政府機関が連携し、AIの開発・導入・人材育成を統合的に推進している。
- Digital Industry Singapore(DISG)
シンガポール経済開発庁(EDB)、企業庁(ESG)、情報通信メディア開発庁(IMDA)が共同設立したデジタル産業向けの政府統一窓口で、シンガポールの強みとなるテクノロジー分野の特定や人材基盤の強化、持続可能なテクノロジーエコシステムの構築を担っている。 - AI Singapore(AISG)
国家のAI推進中核機関として、基礎・応用研究、AIガバナンス(統治)、技術開発、産業界へのAI導入促進、AI製品開発、人材育成まで、包括的なプログラムを展開する。 - SkillsFuture Singapore
国民の生涯学習とスキル習得を推進する国家機関。国民が政府補助を活用してAIも含めた質の高い教育・研修にアクセスできるよう、教育機関や産業界と連携してエコシステム全体を強化している
官民で企業のAI導入をサポート
企業のAI導入を加速するために、シンガポール政府は企業の準備状況に応じて、導入のハードルを下げるさまざまな支援策を展開している。