5
田中貴金属、AI追い風に成長
貴金属価格高騰でも需要拡大

田中貴金属、AI追い風に成長
貴金属価格高騰でも需要拡大

中東情勢の緊迫化を背景に、金や銀などの貴金属価格の変動が激しさを増している。こうした影響を受ける中、大手貴金属メーカー、田中貴金属のシンガポール法人は、人工知能(AI)関連需要を追い風に売り上げを伸ばしている。【鳥居悠理】


Man speaking during an interview or discussion in an office meeting room, gesturing with his hands while seated at a table.

田中貴金属は人を大事にする会社、従業員にのびのび働いてもらえる環境作っていきたい」と話す湯浅氏=3月31日、シンガポール中心部(NNA撮影)

田中貴金属グループは、シンガポールに田中エレクトロニクス シンガポール、田中貴金属シンガポール、メタロー・テクノロジーズ(シンガポール)の3社を展開している。従業員は計約400人。田中貴金属の海外事業はすべて企業間取引(BtoB)で、半導体や車載部品、電子機器向けの貴金属材料を製造・販売している。また、研究開発拠点として「銀ペースト研究開発(R&D)センター」を設け、開発活動も行っている。

Table outlining Tanaka Precious Metals Group’s operations in Singapore, including company names, establishment years, business activities, and employee numbers.

田中貴金属シンガポールの湯浅健マネジングディレクターは「AI需要は2024年から25年にかけて約40%増加し、特にデータストレージ関連が伸びている」と話す。製品はシンガポール、マレーシア、日本、台湾で製造し、航空輸送で3~5日程度でシンガポール、マレーシア、インドネシア、タイ、フィリピン、ベトナムの企業に供給している。
半導体分野では地政学リスク分散の動きもあり、シンガポールやマレーシアを中心に需要が拡大。インドネシアも含めた地域のグローバル半導体企業向けに供給が拡大している。
 

貴金属価格高騰は逆風、使用量削減で対応

中東情勢などを背景とした貴金属価格の変動は事業に大きな影響を与えている。湯浅氏は「産業用途向け製品が全世界事業の約7割を占め、貴金属価格高騰は逆風となる」と指摘する。原材料価格の上昇は製品価格に直結し、顧客にとってもコスト増となる。
このため田中貴金属は、貴金属の使用量を抑えつつ性能を維持する技術開発を進める。例えば、金のボンディングワイヤを銅に置き換えたり、金メッキをニッケル・パラジウム・金の3層構造にしたりして金の使用を最小限に抑える工夫を行っている。湯浅氏は「薄く、小さく、軽くすることで、性能を維持しつつコストを抑えている」と語る。
中東紛争の影響については、「少しずつ影響を受けている。今後の状況は懸念しているが、現在はコントロールできている」と話す。
製品の輸送は航空輸送を主とするため輸送コストの上昇が懸念材料で、梱包(こんぽう)資材・原材料価格の上昇も念頭に置く。「顧客が生産調整によって生産を減らせば需要も減少する可能性がある」として、今後の動向を注視している。
 

循環型経済と水素社会への長期投資

今後のキーワードとして、サーキュラーエコノミー(循環経済)を掲げる。東南アジア諸国連合(ASEAN)域内で使用済み製品から貴金属を回収・精製し、再利用する体制の構築を目指す。スクラップから回収した貴金属は、鉱山採掘に比べ二酸化炭素(CO2)排出量が大幅に少ない。
湯浅氏は「サステナブルな社会に貢献し、この2~3年で大きく飛躍したい」と意欲を示す。5月にはマレーシア・クアラルンプールで開催される半導体関連展示会にも出展する予定だ。
もう一つのキーワードは、水素を活用した「ハイドロジェン・ソサエティー(Hydrogen Society、水素社会)」への取り組みだ。再生可能エネルギーで水を電気分解して水素を生成・貯蔵し、再び電力として利用する仕組みで、CO2を排出しないクリーンエネルギーとして期待される。田中貴金属は約40年にわたり研究を続けており、先行する日欧米中に続きASEANでの展開を視野に、数年~10年後のビジネスチャンスと捉え、プレゼンス確立を目指す。
AI需要を背景に業績は好調で、30年までにシンガポールでの売り上げ倍増を掲げる。湯浅氏は「シンガポールとマレーシアを軸に、さらなる成長を目指す」と意気込みを見せる。
貴金属価格の変動に左右されない持続可能な仕組みづくりを、今後も強化していく。
 

Circular metal sputtering target component with a polished reflective surface and copper-colored outer ring displayed against a white background.

半導体やデータセンター用ストレージなどに用いられる焼結法によるスパッタリングターゲット=3月31日、シンガポール中心部(NNA撮影)

出典:NNA 2026年4月21日付記事
この記事は株式会社NNA(http://www.nna.jp/)より利用許諾を得て転載しています。著作権は株式会社NNAまたはそのグループ会社に帰属します。無断での複製、送信、頒布は禁止されています。

関連記事

Subscribe now icon
シンガポールからのビジネス情報やニュースを無料でお届けします