2025年に完了した国家研究開発5カ年計画『RIE2025』に関する報告書が8月31日に公開された。予算280億ドルを充て、2021年4月から2026年3月にかけ実施したRIE2025の研究・イノベーションの成果を総括すると同時に、後継事業『RIE2030』の5カ年ロードマップの詳細も発表した。
RIEの予算は通常、国内総生産(GDP)の約1%を占める。
RIE2030はすでに、半導体などの主要経済分野や、ヘルシーエイジングといった国家の優先課題に向けた研究・イノベーションに370億ドルを充てることを発表済みだ。
国立研究財団(NRF)のヘン・スイキャット理事長は、8月28日に行われた2026年度「President's Science and Technology Awards」授賞式で演説し、2つのRIE関連文書はシンガポールにとって重要な節目となるものであると述べた。
ヘン氏は「文書は、活気に満ちた研究コミュニティの成果を総括すると同時に、成長と強靭性の根幹となる科学技術への投資を継続する上で、明確な方向性を示すものだ」と語った。
RIE2025報告書は、研究開発エコシステムで民間の参画が拡大していることを示す指標もいくつか取り上げている。
例として、研究開発に対する公的支出1ドルに対し、2023年の企業支出は1.87ドルと、2018年の1.48ドルから上昇した。
研究開発を行う企業数も、2023年には1030社と、2018年の855社から約20%増加した。あわせて企業付加価値額も75%以上上昇し、2023年は1612億ドルに到達した。
2023年の民間企業の研究開発職は33%増の3万2509人で、国内居住者が占める割合は10人中7人を超えた。
データの公表に時間差があることから、報告書では2023年のデータを最新値として採用し、可能な場合は5年前を基準に比較・分析を行っている。
報告書によると、これらの成果はRIE2025と過去のRIE計画への投資に加え、政府の幅広い政策・施策が相互に作用した結果だという。また、経済面への貢献にとどまらず、新型コロナのパンデミック対応に活用された診断ツールの開発や関連研究など、RIE投資がシンガポールの国家的課題の克服にいかに貢献したかについても触れている。
他の成果として、大規模水上太陽光発電所の普及に道を開いた研究や、新興住宅地区の風の流れを最大15%改善したモデリング・シミュレーション解析なども挙げた。
ディープテック・エコシステムの構築
国内研究エコシステムからはディープテック企業も次々と誕生した。上場した企業や買収された企業もある。
その一例が、シンガポール工科デザイン大学 (SUTD)の研究者らが創業したHorizon Quantum Computingだ。同社は2026年3月、時価総額5億6700万米ドル(約1147億円)でナスダックに上場した。
科学技術研究庁(A*STAR)からスピンオフしたシリコンフォトニクス企業Advanced Micro Foundryは、2025年11月にグローバルファウンドリーズに買収された。
2025年に香港で上場したがん診断企業のミレックサスもある。同社はシンガポールに統合研究開発拠点と製造拠点を置き、全世界の従業員の約60%が国内に在籍している。
一方で、研究成果からさらに商業的価値を引き出す余地があるという。
公共部門の知的財産から得られたライセンス収入は2023年に1860万ドルと、前年の2420万ドルから減少した。
報告書は、2023年のライセンス収入額はマサチューセッツ工科大学、ハーバード大学、スタンフォード大学といった米国の主要研究機関を大幅に下回っていると指摘する。
この格差の背景には、ボストンやサンフランシスコなどの都市の成熟したイノベーション・エコシステムにあると報告書は分析する。これらの地域では多数のベンチャーキャピタルや業界プレーヤーが集まり、大学の知的財産需要をけん引している。
ディープテック系スタートアップは、資金調達を取り巻く環境の変化に直面している。2022年から2025年にかけ、少なくとも毎年10億ドルのベンチャー資金を調達してきたとはいえ、案件数は2023年の134件から2025年には91件と減少した。マクロ経済の不透明感や借入コストの上昇、金融環境の引き締まりを背景とした世界的な潮流を反映したものだという。
資金調達面での課題に対応するため、企業庁(EnterpriseSG)は2026年3月、RIE2030のStartup SG Equityスキームに10億ドルを追加拠出し、成長段階のディープテック系スタートアップへの支援を拡充すると発表した。
新たに3億ドルの補助金「Research Translation Grant」も創設される。公的研究機関で生まれた初期段階技術の育成を助成し、民間投資家が出資に踏み切れる水準まで引き上げることで、商業化への橋渡しを図る。